認知症の方の相続放棄

文責:所長 弁護士 大澤耕平

最終更新日:2024年05月29日

1 相続放棄とは

 亡くなった方に借金があるとか、亡くなった方との関係性が疎遠であったため財産があっても引き継ぎたくない、といった場合に、相続放棄の手続きをすると、亡くなった方の一切の財産(負債も含みます)を引き継がなくて済むようになります。

 このように、亡くなった方の財産を相続するか否かを自分で判断することができるのであれば問題ないのですが、認知症によってその判断ができないという場合があります。

 このような場合、どうしたらよいのでしょうか。

2 相続人が認知症の場合の相続放棄

⑴ 認知症の相続人自身では、相続放棄はできない

 相続人が認知症になり、その程度が重い場合、相続放棄をするかどうかの意思決定をすることができない以上、相続放棄の手続きをすることはできません。

 たとえ家族であったとしても、認知症の方が、ご自身の判断で相続放棄をするという意思決定ができない以上、代わりに相続放棄の手続きをすることもできません。

 

⑵ 認知症の方が相続放棄をするには、後見人を付ける必要がある

 相続人が認知症になってしまい、その程度が重い場合、家庭裁判所に申立てをして、成年後見人を選任してもらう必要があります。

 成年後見人とは、認知症になってしまった方の代わりに、その方の利益のために意思決定をする方のことです。

 成年後見人が選任された後、成年後見人が相続放棄をした方が認知症になってしまった方にとって利益になると判断すれば、相続放棄の手続きをしてくれます。

3 成年後見人が相続放棄をする場合の期間制限

 相続放棄について調べたことがある方は、「相続放棄は、3か月以内にしなければならないとされているけど、成年後見人を選任してもらっている間に3か月たってしまったら、相続放棄ができなくなってしまうのでは?」と不安に思われる方もいらっしゃるかもしれません。

 しかし、成年後見人を選任すべき事案では、成年後見人が選任され、成年後見人が亡くなった方の死亡を知った時から3か月以内に相続放棄をすればよいとされています。

 相続放棄の期限である3か月間という期間は、相続をするか相続放棄をするかを判断するための期間(熟慮期間と呼ばれています。)であり、相続人が認知症である場合には、相続放棄するかどうかを判断することができないので、3か月間という期間のカウントも始まらない、という扱いになっているのです。

 なお、認知症になっていない他の相続人については、通常通り亡くなった方の死亡を知った日から、3か月のカウントダウンが始まりますので、認知症になっていない相続人の方は、先に相続放棄の手続きを済ませておかなければならない点に、ご注意ください。

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