全員が相続放棄をしたら家はどうなるか
1 全員が相続放棄をすると、家はどうなる
亡くなった親族が田舎に家を所有しているが、その家を管理・処分をすることが困難なため引き継ぎたくないという場合、相続放棄をしようと考える方もいらっしゃると思います。
では、相続人全員が相続放棄をした場合、家はどうなるのでしょうか。
民法239条2項では、「所有者のない不動産は、国庫に帰属する。」と規定されています。
したがって、相続人全員が相続放棄をした場合、亡くなった方の所有していた家は「所有者のない不動産」ということになりますので、国に引き継がれることになります。
ただし、不動産を国に引き継ぐためには、相続財産清算人(令和5年4月以前の旧民法では、「相続財産管理人」と呼ばれていました。)の選任を申し立て、相続人がいないことを証明する必要があります。
2 家の管理義務に関する注意点
相続放棄によって、家の所有権を引き継がなくて済んだとしても、必ずしも家の管理義務まで免れられるとは限りません。
この点については、令和5年4月に改正民法が施行されましたので、詳しくご紹介します。
⑴ 旧民法での規定
旧民法940条では、「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となったものが相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない」と規定されていました。
この規定により、例えば唯一の相続人が相続放棄した場合や最終順位の相続人として相続放棄をした場合、相続財産管理人を選任し、国に家を引き継いでもらうまで、「自己の財産におけるのと同一の注意をもって」家を管理する義務がありました。
もし相続財産管理人を選任せず、国に家を引き継がなかった場合、例えば家の外壁が崩れて通行人にけがをさせてしまったら、損害賠償請求を受けるおそれがありました。
⑵ 令和5年4月施工の改正民法
改正民法940条では、「相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は(中略)相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない」と規定されました。
これによって、相続財産である家を「現に占有」していなければ、家の管理義務を負うことはなくなりました。